月と鳥と海


3月は全ての週末がフル稼働のような感じで、もう休む口実に天気が悪くなってくれても構わないぞーと思っていたが、今週も無慈悲な(?)快晴予報。であれば行くしかない、しかも晴れそうなのが東北で、どこかで鳥海山に行きたいと狙っていた目論見にも合致する。

土、日ともに晴れるなら、土曜の夜に滝の小屋まで入って、日曜は未明から歩いて鳥海山の頂上で日の出を見る、という案もあったが、それにしては土曜もド快晴の見込みで、数キロ歩くだけの一日にしてしまうのは勿体ないと思い、これも最近気になっていた湯殿山と連チャンで組むことにした。湯殿山は、志津から往復する人も多いが、中には月山と繋げて歩く人もいるらしい。トレースがあるならこれをしよう、と決め、慌ただしく行程を組み立てた。

土曜。まずは湯殿山へ。前泊地は山形で、山交バスと西川町のローカルバスを合わせれば、7時半前に山形駅を出て8時半過ぎには月山麓の志津に到着する。ローカルバスに乗ったのは、自分も含めて山装備の3人。すでに日も高く昇っており、焦るようにして無心でトレースを追いかけた。標高1,300m頃にもなると見晴らしが良い。

湯殿山の頂上。BCスキーヤーにスノーシューを付けた登山者ととても人が多く、賑わっている。相変わらず春霞で濁った景色になっているのが残念だが、風はこの時点ではほとんどなく、雪質もベシャベシャという程ではなくまだそれなりに締まっていて、かなり良いコンディションだった。気温は暑いくらいで、湯殿山はずっと半袖で登っていた。

月山に向かっていく冬季のみの縦走路。トレースを確認する。

湯殿山から月山に向けて標高を落とし始める、ほとんどその開始地点のようなところに気になるクラックが。トレースの付いている部分ではまだ雪面が繋がっていたが、近いうちに面倒なことになりそう。

トレースがなければルート検討に時間を要すること間違いなしなので、先行の方々が本当にありがたい。標高1,500mだった湯殿山からは一度200m程標高を落として、そこから再度標高2,000m弱の月山ピークを目掛けて登っていく。

絵になる先行の方。だだっ広い雪原の中、孤高で歩く姿。

このトレースの先、小ピークが姥ヶ岳。姥ヶ岳からまだ300m以上登らないと月山には届かない。

一息ついて、西の方角を眺める。海の気配はなし。距離もあるし、何より霞が酷い。麓に続いていく月山の裾野、それがシミのない真っ白な雪でべったりと覆われているのはよく分かって、もう春のようなつもりでいたけれども、ここはまだまだ冬真っ盛りのような展望。その中を半袖で歩いていることに、不思議な気持ちになる。

前方に向き直って、まだまだ遠い月山山頂を見る。雪の斜面はたまに距離感覚が普通ではなくなって、実際に歩いてみるとそこまで遠くなかったと感じることが多々あるので、これもそうだったらいいのにと思っていたが、豆粒くらいのサイズで先行者が斜面に取り付いているのが見えて、錯覚ではなく実際にまだまだ遠いことを悲しくも確認する。

ラストの登りはカメラも使わずひたすら無心で駆け上がり、月山の頂上。ここまで半袖で歩き通していたら、さすがに何名かのスライドした方々に驚かれた、というか心配された。それもそのはず山頂は(山頂だけ)暴風で吹雪のありさま、雪の欠片がビシバシと露出した腕その他に当たって痛いこと。

頂上の雰囲気だけ足早に味わって、早々に風の弱いところまで戻って上着を羽織った。頂上からは翌日に目指す鳥海山が見えるはずが、どの方角にも気配を感じず。霞でここまで景色が失われてしまうのかー、と少しびっくり。だって月山と鳥海山って割と近いじゃない。

なんだか怪物じみた造形をしているものがあるが、

これは避難小屋。頂上と反対側から覗き見れば、わずかに小屋の一部が雪から現れている。

頑張って登った分の標高差を、少し怖いくらいにあっさりと返却していく冬山の下り。ずいぶん遠くに見える先行者たちも、ズンズンと闊歩して下りていくと数分で(本当に10分もかからない)追いついてしまう。

午後になると大気の濁り度合いは増して、朝方はまだ見えていた気がする朝日連峰もどこにあるのか分からない。

帰りは姥ヶ岳をショートカットして、リフト沿いに下りていくことにした。月山に初めて来たのはもう6年も前のこと、当時はまだコロナ隆盛で、色々気を遣いながら登山していた気がする。5月でもまだ雪が多く、いま時期程ではないにせよ、頂上手前から姥沢の駐車場まで雪面が繋がっていたのをよく覚えている。

雪が多すぎて逆に冬に営業しないスキー場のリフト。一部の支柱はまだ雪に埋まっていた。営業開始が近付いているようで作業車が入ってきていた。圧雪されているところがあると少しありがたい。

まだ一般車は入れない姥沢の駐車場から、志津のバス停までは車道歩き。この先で雪が出てくることはないのでゲイターとアイゼンはここまで。道路の除雪は完了しているようで、ミニ・雪の大谷のようになっている区間も。

朝に写真を撮っていなかった、手が届きそうな青看板。撮影者方向に歩けば湯殿山へ、青看板の示す月山の方向へ歩けば姥沢の駐車場にたどり着く。

志津まで戻ってきて、月山をあらためて遠望。もう下は暑いくらいなのに一際目を引く真っ白の山体で居てくれて、実際に頂上はまだまだ冬本番のような厳しい環境だった。湯殿山だけなら往復10kmもしないくらいで、月山を交えれば20km程になり、負荷としてかなり丁度いい。トレースありきなところはあるけど。トレースなしだったら、もう1~2時間は追加で見ておかないといけない。

志津のバス発着場の隣にある自販機は動いておらず。無念。月山口のバス停まで戻って、さらにその先のドライブインまでいけばようやく動いている自販機がある。帰りのローカルバスは自分一人で、山交バスに乗り換えて鶴岡、さらにそこから羽越線で酒田まで出てこの日は終了。

日曜日。酒田のビジネスホテルを出発して、いざ鳥海山へ。タクシーで鳥海山荘まで送り届けてもらった。睡眠時間を8時間取ったはずなのにまだ足に疲れが残っている。が、この晴天を逃す手はない。気合いを入れて出発。

30分程度で鳳来山を通過。家族旅行村から早速トレースがしっかりあって、連日本当にありがたい。ヤマレコやヤマップでも鳥海山の記録は多数上がっていて、しかしその大半は秋田県側・中島台のルートなので、湯の台から登っている人はあまりいないのではという不安があった。実際にはトレースは少なく見積もっても5人分以上はあるようで、かなり安心感があった。

視界が開けて、鳥海山の迫力ある姿が目の前に。

斜面を一登りしたらさくっと外輪山にたどり着けそうな気がしてくるものの、これもまた距離感覚が正常じゃないせい。何年か前に冬の宝永山に行ったときに、富士山頂が手の届きそうなくらい近いところに見えて、その実まだ1,000m以上を上げないといけなかったというのと似ている。

雪面を歩くこと約1時間半、ようやく滝の小屋が見えてきた。夏山ではほとんどこの付近まで車で上ってこられる。冬はこの時点で結構消耗している。ビビッドな赤色の屋根に妙に安心感を感じる不思議。冬でもトイレが使える(?)ようで、ここを拠点に1泊2日で歩くのも楽しそう。

滝の小屋はまだ標高1,200m台。ここからさらに1,000mを登らないといけない。複数あってどれを頼ればいいのかイマイチ判然としないトレースのうち、もっとも夏道に近い(心字雪渓の方に向かっている)ものを選んで、このトレースの近くを踏んでいく。雪質はまだ朝ということもあってか程よく固く、トレース外を歩いても全く問題ないコンディションだった。

やや斜度の大きい斜面を突破して一息。左のぽこっとしたピークはおそらく月山森。なかなか外輪山までの距離が縮まらなくて心に堪える。

みんな思い思いの場所を歩いている。湯の台側から登ってきている人もそれなりにいるようだった。

トレース3択。まあどれを取っても同じくらいの標高差があるわけで、どれが正解なんてことはない。自分はシュプールに消されがちな一番左のものを選択。

ようやく外輪山の縁が見えてきた。標高1,700m~1,900m付近がなかなか辛かった。トップが近付いているはずなのに一向にその感覚がない、そして斜度はずっとキツい。アイゼンの先端が雪面に刺さるように、爪先を引っ掛けながら前傾姿勢で登っていく。

そして到着、外輪山。歩いてきたトレースはそのまま伏拝岳に続いていて、ここから新山方面を眺める。この距離ならば霞の影響は小さくて、厳冬期のような真っ青の空の下、白色の頭頂部がよく映える。

行者岳、七高山と外輪山を攻略。

七高山から東方向を眺める。大気の汚れはある一定の高度のところでせき止められて、その線の上は青く澄んだ空が広がっている。

外輪山から新山へ。雪があるおかげなのか、夏のときよりも鞍部への下降が少ないような気がして、それゆえに新山への登り返しもこんなになんてことない道だったっけ?と思えてくるあっさりとしたものに。夏ならば岩場を上手いこと歩かないといけなかったはず。いまはそれらすべてが雪の下にある。

さて、新山は一体どれなのかという問題。これが難しい。「新山」と白ペンキで書かれた岩は当然雪に覆われていて、見た目の高さで、これかこれと思しき2つのピークに登った。

一帯の岩々はいずれも雪のコーティングを身にまとって、ボコボコとした気味の悪い造形をしている。

この時期に一番メジャーな中島台ルートを見遣る。雪の渓谷の中を歩いているような大迫力の写真をよく見るので、いつか中島台ルートも歩いてみたい。というかもともとは中島台ルートからの鳥海山を残雪期の登りたい山リストに入れていたのだった。中島台はバイクでないとアクセスが難しそうなので、来年も今回と似たような気候であることを期待して、3月の目的地にしようか。

これから新山にアタックする登山者。

外輪山に戻ってきて、千蛇谷を眼下に。千蛇谷から最後の新山への登りはこちらもなかなか斜度がキツくて大変そうだった。というのを外輪山の縁から見下ろして眺める、高みの見物。

下りもまた自由にコースを選べるありがたい仕様。伏拝岳にたどり着いた往路よりは手前(山頂寄り)、行者岳付近から標高を落とし始めた。昼前から顕著に雲が流れ始めたと思ったら、いつの間にか頭上の大半が雲に覆われる曇り空に。

曇りはしても視界がなくなるようなガスが広がるわけではないので助かった。こういう広い雪原の歩きでガスに撒かれてしまうとかなり恐怖心がある、いまはGPSがあると言えどもなるべくそういう状況は回避していきたい。

帰りは本当に一瞬。滝の小屋に居たかと思えばそこから1時間そこらで家族旅行村に帰着。復路のタクシーを呼んでいたが、もう30分早い時間を指定してもいいくらいだった。

時間があったので、猛禽類保護センター「鳥海イヌワシみらい館」に立ち寄り。入館は無料、15分程度で展示を閲覧できて、ちょうど良かった。

タクシーとのランデブー地点、鳥海山荘に帰ってきた。昼前後に湧いてきた雲もどこかに流れて、また朝のときのように白い山体がどっしりと佇んでいる。

八森温泉で汗を流し、酒田駅に戻ってきた。もともとはこの一本後の特急いなほに乗るつもりだったが、土壇場で間に合いそうになったので列車変更。明るい時間に走る列車に乗れたことで嬉しい副産物が2つあって、

まずは鳥海山の景色を見、

そして笹川流れに日が沈んでゆくシーンも目撃できた。日没自体はもう少し後だったが、夕日の2歩くらい手前の景色もそれはそれで良いもの。

特急いなほは新潟で下車、そこから上越新幹線に乗り継いで慌ただしく(いつも慌ただしい)東京に帰ってきた。歩き続けた3月の週末の締めに相応しい東北、山形県の2座。年度末を迎えて仕事の方がまた一段とややこしくなってくる中、良きリセットになりました。

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