雪山初め。そしてラッセル初め。行ってきました鹿島槍。5年ぶりに立つピークは暴風吹き荒んでいましたが、初冬の北アルプス、白銀の眺めを心ゆくまで楽しむことができました。
昨シーズンは雪山スタートが1月の大雪山とかなり遅かったので、11月からラッセルも始めてしまう今年はかなり優秀。とはいいつつ久々に足に重たいアイゼンやらスノーシューやらを付けて歩いたら結構疲れてしまったので、来週は休みの口実にするために、天気が悪くても構わないっす。
金夜に信濃大町まで前乗りして、翌朝は扇沢行きの始発バスに乗る。この時期でも7時5分に出るバスがあって助かる、とは言うものの扇沢はこの週末を過ぎると冬期規制に入ってしまい、バスも年内の運行はこの土日まで。
晴れの予報とは反対にどんよりと雲が広がる大町市街。でもこれたぶん低層の雲だなー、と前向きに考える。前乗りのホテルは今回も駅前のルートインにした。これ絶対に登山者の前乗りニーズを狙ってる立地でしょ、と思いつつも毎回ありがたく使ってしまう。
低い雲が薄く漂っていて、その上は一体どうなっているのか、と気になる空模様。アルペンルートも年内最後の2日間の営業ということで、おそらく立山に滑りにいくのであろうBCスキーヤーが扇沢の駅にたくさん並んでいた。ここから乗り物を4種類乗り継いで、途中では黒部ダムでダッシュして、ようやるわぁ。
私は扇沢から離れてこっちへ。鹿島槍を目指すにあたっては、大谷原からの赤岩尾根も考えたものの、金曜にまとまった降雪があったはずで、そうなると赤岩尾根は先行トレースを期待しにくい。その一方で柏原新道なら爺ヶ岳を目指す人がそれなりにいるはずだからトレースに与れるだろう、と打算的に考えた。実際、柏原新道登山口には車が多数停まっていた。
標高の低いところは若干の凍結があるものの基本的には夏道と同じコンディション。徐々に雪が出てきて、駅見岬の付近から雪が繋がった。
標高1,800m過ぎで雲を交わし、するとこの景色。やーっぱり上は晴れていた。こうなると早く稜線に行きたい、行かなきゃ、と気が急いてくる。2,200mくらいまでツボ足で適当に歩いていたが、一箇所、結構ドキドキするトラバースがあり、その後でアイゼンを着けた。
雲は完全に眼下に。いわゆる針ノ木サーキットの面々が、みな雪化粧をして立ち並んでいる。どのピークも凛々しくて格好いい。
種池山荘へラストの登りを駆け上がっていく。トレースは基本的に夏道通りで、前週の連休のときは最後に稜線まで直登するルートもあったようだが、今回はそれは見られなかった。
足跡と針ノ木岳の雄姿。
爺ヶ岳を捉えた。登山者は居るだろうとは思っていたが、これほど多いとは思っていなかった。もしかして鹿島槍を目指す人もこの中にいるのだろうか? あまり多いと冷池山荘の避難小屋が一杯になってしまうかな? と少し不安にもなる。
種池平の森林限界直前。木々にはびっしりと海老の尻尾が付いていて、前日の降雪の激しさが窺える。木曜はどちらかというと好天寄りだったはずなので、金曜一日でこれってこと? すごいなぁ。
爺ヶ岳南峰へラストスパート。先行登山者を交えて、いかにも雪山登山というような写真が撮れた。
爺ヶ岳北峰、中峰。こうしてみると北峰までは意外と距離がある。
南峰に到着。登山者で賑わっていた。爺ヶ岳は5年前の秋に八峰キレットを歩いたときにその続きで登頂していたが、雪シーズンは初。11月後半、降雪後の柏原新道はもしかしてメジャーな選択肢なのだろうか? いままで知らなかった。
そして、振り返るとこの景色。息を呑む。針ノ木サーキットの面々のみならず、立山や剱岳も視界の中に。
爺ヶ岳までのピストンにするとしても、これが見られるならば充分アリだなぁ。
だが今日はまだここでは帰れない、なぜならこの山々を目指すから。鹿島槍、爺ヶ岳北峰、そして爺ヶ岳中峰の並び。
まずは爺ヶ岳中峰。山頂標にHighest Pointと書かれており、ここが爺ヶ岳の3つのピークで一番高いとのこと。そうだったのか。ほんの気持ちだけ鹿島槍が近づいたように感じる。
東尾根はこんな感じ。低い視力でうーん?、と見渡してみたけれどトレースがあるかは判然とせず。扇沢が冬期規制に入った後は、こちらがメインルートになるのだろう。
そして長らく使わせてもらってきたトレースはここ、爺ヶ岳中峰までで終了。この土曜日の先行者の中には北峰、冷乗越方面に進んだ人はどうやら居なかった様子。(前方の雪庇の上に付いている跡はアニマルトレース)
雪山はトレースがなくなってからが本番。いざ、大展望の中を突き進んでいく。
稜線はアイゼンのままで問題ないかなと思っていたら、意外と雪質が柔らかくズボズボと足が埋まっていく。覚悟はしていたがやっぱりラッセルかあ。北峰の少し手前でスノーシューに付け替えた。
ズボズボ歩きは苦しいので、写真撮影を言い訳にして足が止まりがち。何気なく爺ヶ岳を振り返って、何気なく写真を撮る。そうやって撮る写真にどれもきれいな白銀の風景が残っている。
冷池山荘が見えてきた。手が届きそうなくらい近くに見えるのになかなか距離を詰められない。高い頻度で足が取られて踏み抜いてしまうので、スノーシューでもなかなか難儀して、時間がかかる。
冷乗越を通過。ここからも先行トレースは出てこず、ということは赤岩尾根から歩いてきた人はこの時点ではいないということ。柏原新道ルートにしたのは正解だったか。
ようやく冷池山荘に到着。山荘手前のほんの少しの登りが苦しい。11月末の初冬の積雪深であれば小屋はあまり雪に埋まっていない。
冷池山荘はありがたいことに冬期避難小屋が開放されている。先ほどの画像の本館の真反対側、階段を昇った先のこの白いドアが避難小屋の入口。
トレースがなかったし当然という気もするが、小屋には他に人はおらず。とりあえず重たいザックを置いて、奥に寝場所をセッティングした。ここの避難小屋は全部が土間になっている(だから貼り紙では避難小屋ではなく避難室という表記になっているのかも)ので、グランドシート的なものを持ってきた方が良かった。
たまたま今回はSOLのエマージェンシーシートを持ってきていたので、それが地面に触れるようにした。
冬期避難小屋の利用料は2,000円。指定の住所に送るようにと案内書きがあり、帰宅後に対応します。
昼下がり、初冬とはいえ流石にこの時間はまだ明るいので、トレース作りと様子見を兼ねて布引山まで歩くことにした。小屋にいてもやることがないし、下手に室内で動き回るとゲイターや靴から雪がパラパラと落ちてしまってよくないし。重たいザックに辟易していたので、足にはスノーシュー、あとはカメラだけ首にかけて手ぶらで歩くことにした。
布引山は鹿島槍のオマケみたいに思いがちだけれども、冷池山荘付近から見ると結構急傾斜で聳えていて、雰囲気がある。
終盤はスノーシューではなくアイゼンの方が良かったかなと思いつつも布引山に到着。冷池山荘のテント場のしばらく先にある遭難の碑のところの前後でスノーシューからアイゼンに切り替えればちょうど良さそうだ、ということを翌日のために頭に入れる。
布引山からの眺め。この時間になってもまだ低層の雲が谷の中に漂っている。
布引山から南方向。爺ヶ岳、種池山荘から針ノ木サーキットへの一続きの山稜がきれいで、指先でさーっとなぞり書くような動作をしたくなる。
鹿島槍ヶ岳の南峰は、布引山から見ると割合に近い。山荘から布引山まではトレース無しだったが、ここから先には若干の踏み跡のようなものが見えた。もしかして、先週末の連休のトレースがまだ残ってる?
この距離ならこのまま歩いてしまってもいいかもなぁと思うものの、このときは下見のつもりでアイゼンを持ってきていない。一応、スノーシューにも刃のようなパーツは付いているので登攀はできそうだが、下りがどうだろう、でも明日の朝は風が強いらしいから今日のうちに登っておいた方がいいのか?、などと取り留めなく考えるが、最終的にはアイゼン無しなのが効いて、この日は大人しく山荘に戻ることにした。
冷池山荘への帰り道、ブロッケンもどきみたいなのが見えた。
夕方、シュラフにくるまりつつぬくぬくしていたら西日が強く差し込んできて、どんな景色になっているかなと外に出てみたら爺ヶ岳が仄かにアーベントロートになっていた。
早めに夕飯(柿の種と握り飯)を腹に入れて、その後は録り溜めていた深夜ラジオを流しつつ18時頃には眠りについた。シュラフは暖かかったが妙に寝付けず、浅い眠りを繰り返して、ようやく本眠りに入った頃にアラームが鳴って目を覚ました。
翌朝。強風予報に少しビビりながらも、アタックザックのみ背負って、鹿島槍ヶ岳を目指して4時半過ぎに山荘を出発した。鹿島槍ヶ岳の南峰の予想風速は16m/sとかで、なかなか痺れる環境。下見通りにスノーシューは遭難碑のところでアイゼンに履き替えて、トボトボと稜線を歩いた。前日にトレースを作っておいた自分が本当に有能。
布引山の前後くらいから風は強まって、少しだけ外気に触れている肌の部分(特に目の周り)に寒さが突き刺さる。
東の空が白み始めた。ブルーアワー、そしてオレンジアワーへ。大町市街の夜景もきらきらと瞬いている。
前方の鹿島槍も、徐々にその山体があらわになる。暗い中でヘッデンの明かりを最大にしていると意外と遠い距離の様子が掴めないが、ふとしたときにライトを落としてみるとふわーっと朧気なシルエットが見えてきて、こんなに迫っていたのかと驚く。
風と、風に煽られて舞い上がった雪の欠片がびしばしと顔に当たる中を黙々と歩いていく。
シュラフの中で、怖くなって引き返してしまうくらいの強風だったらどうしよう、と薄っすら考えていたが、幸いなことに一心不乱で登っていたらあまり恐怖を覚えることはなかった。
ついに登頂した、鹿島槍ヶ岳南峰。時間は6時過ぎで、日の出にはまだ30分近く時間がある。
予報通り、猛烈な風が吹き付けるので手元がブレて、なかなかカメラのピントや水平を調整できない。山頂標の文字が全然読み取れないのは逆光のせいなのでご愛嬌。
空が明るくなるにつれて、徐々に荘厳な連峰の様子が明らかになっていく。爺ヶ岳や針ノ木岳方面への山々は昨日も見ていたとはいえ、この時間帯の景色はまた格別。
南峰の先端部(北峰寄り)は一層風が強く当たって、写真を撮るだけでも一苦労だった。北峰への吊尾根とその先の八峰キレット、そして五竜岳へと続いていく美しい山並み。5年前、紅葉の時期に歩いた八峰キレットも美しかったが、冬のこの景色を見てしまうと冬の勝ちと言わざるを得ない。
クローズアップ北峰。せっかくだから双耳峰の両耳、北峰と南峰をどちらも歩きたいと思っていたが、南峰先端部の風の強さと、おそらくノートレースなのでまた道を作っていかないといけないことを考えると、まあもう高い方(南峰)には来たからいいか〜、と結論付けて、ここで引き返すことにした。
時計を見ると日の出にはまだ20分ほどあるようだったが、風が強くて寒いからもう待っていられない、ということで下山開始。それくらいなら待てばいいのに、という向きもあるかもしれないけど、下りたら下りたで鹿島槍のモルゲンロートが見られるかもしれないというのもあったのでこの判断は後から振り返っても正解。
布引山の少し手前(鹿島槍寄り)で、ついに日が出てきた。この付近で単独の登山者とのスライドも発生。パッと見たところ割と軽装だったので日帰り(もしかして赤岩尾根?)か、あとで冷池山荘の前を通るときにテントが一張あったのでそこの人だろうか。
日が昇ってきたらもうすぐにモルゲンロートの時間帯。黒い幕が少しずつ引き上がって、だんだんと白銀の山肌に色が差していく、その刻一刻の変化がドラマチック。
前方のモルゲンロート、オレンジロート? が綺麗だなぁ、どこかで足を止めてじっくりと写真を撮りたいなぁと思いながら後ろを振り返ると、
うわ、あっっっか!!!! なんじゃこりゃーーー。
と心の中で叫びつつ(少し漏らしつつ)、早く撮らなきゃ撮らなきゃと慌ててカメラを向ける。それにしても赤い、赤すぎる。これを見るためには鹿島槍の頂上に居てはいけないという罠。頂上に居たら居たで、八峰キレットとかがまた美しいのだろうけど、でもまあ今回はこれを見られて本当に良かった。
前方、布引山も負けじと赤色に。
西側、剱岳にも日が射していく。距離が遠いせいか真っ赤というようには見えないが、ほんのり橙色に染まっていくのもまた良い。
という景色を見られる布引山山頂。
布引山の少し先、風の通り道になっていて、数十分前に付けたトレースがもう掻き消えているところがあった。その、サラサラの雪の斜面に身体を押し付けて、風に舞う雪の破片をアップで撮ると、射し込む朝日に照らされて雪の粉がきらきらと輝く綺麗な写真が撮れた。
のんびりとカメラを各方向に向けながら歩いているうちに日は高く上がってしまった。冷池山荘が近付くともう風は穏やかになっている。スノーシューを回収(樹林の陰にデポしていた)して、小屋まで残りわずかな道も慎重に進んでいく。
来たときよりも美しく。なってるかなあ。雪はちらほら落としてしまったが、そのうち融けて蒸発してくれるはず。小屋内で支度をしているときに、また一人登山者(布引山手前でスライドした人とは別)が、小屋の中の様子を見に来ていた。
強風の鹿島槍もさることながら、実は冷池山荘から爺ヶ岳までの登り返しが核心部。重い重いザックを背負って、重い重いスノーシューを足にくっつけて、ズボズボはまっていく雪の中、ガッツリと標高を上げていく。登り標高差が200と数十メートル程度なのが幸い、それでもだいぶキツい。軽装備の長距離トレイルを何回やっても全然鍛えられない部分の筋肉が悲鳴を上げる。
ゼェハァいいながら爺ヶ岳中峰まで帰ってきた。ここまで来れば人がそこここにいるので、無性に安心感がある。スノーシューは北峰と中峰の鞍部付近で外してアイゼンに付け替え。
何度見ても良いものは良い。爺ヶ岳南峰、針ノ木サーキットたち。この日は爺ヶ岳の頂上群も風が強く吹き付けて、昨日よりややシビアな環境だったが、それでも多数の登山者が柏原新道の歩き納めに来ていた。
爺ヶ岳の山肌は気持ち程度、昨日より白の度合いが落ちているかも? この土日は日中の天気はとても良かったので、冬への進行具合という意味では少し足踏み。それが初冬の雪山を楽しもうという登山者には追い風となっていた。
うーーん、良い。ため息が出てしまう。針ノ木サーキットも、こういう時期に狙えたりするのだろうか? 11月中下旬の、まだ夏道の大半が使える、それでいて山肌にはしっかり雪が乗っている時期に。
爺ヶ岳南峰を去りながら、鹿島槍ヶ岳の猫耳にも別れを告げる。今回は片耳にしか立てなかったけれど、八峰キレットはまたいつか歩きたいと思っているのでその時に両耳を再制覇しましょう。
さよなら爺ヶ岳。頂上付近が少し黒っぽくなっている気がするのは、この日曜日の陽光で雪が溶けているのだろう。今日、日曜日の気温は高く、風がないところでは稜線上でもシャツ一枚になりたいくらいだった。
トレースは種池山荘の少し手前で柏原新道に下りていくようになっていて、小屋そのものには立ち寄らず。遠くの稜線の山々もここで見納め。まだ9時台と少し早いタイミングだったが、見たい景色は充分見られた満足感もあり、思い残すところなく下山に向けて標高を落とし始めた。
冬山の下山は早い。サクサクと歩いていたらもう駅見岬。扇沢がよく見えた。今日もラスト扇沢に駆け付ける人々で駐車場は大賑わい。
ちょうどこの付近で積雪が途切れて、惰性で手足に装備していたピッケルとアイゼンをここで仕舞った。するとまたザックが重たくなる悲しさ。その先、ほんの少しの区間だけ凍結があったものの、慎重に進んで乗り切った。
県道まで帰ってきた。終盤はもうザックの重さというよりは暑さの方が厳しく身体を蝕んで、扇沢までの僅かな登り返しも結構こたえる。それでもテキパキと歩いて、なんとか予定していたバスの一本前の便に乗ることができた。
いつも通り、薬師の湯で汗を流してサッパリ。湯上がりの白桃ソフトクリームが美味しい。これなんか別のときにも書いた気がするなぁ。コーヒー牛乳代わりにカフェオレを買ったら、パック形式なのにストローがなくて難儀した。MATCHのペットボトルに移し替えて飲んだら、ちょっと酸味が増して変なことになってしまった。
帰路、大糸線の車窓で爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳がよく見えた。数時間前に自分はあそこに立っていたんだよ、と見ず知らずの人に無性に言って回りたくなる。
松本で特急あずさの待ち時間が発生したので、駅から少し歩いたところにあるテンホウへ。久々に食べたくなってしまった。担々麺と餃子のセットと、写真にはないけど山賊焼きも一緒に。今日は山行中は月餅とおにぎり1個しか食べていなかったので、遅ればせながらのカロリー補充。美味かったァ〜。
歩行距離の割には疲労具合が大きい、これが雪山だなぁと少し思い出す感じもある雪山シーズン緒戦。展望ありラッセルありモルゲンロートあり、久々に持ち出したミラーレス一眼も撮れ高たっぷりで良かった。ベストショットはモルゲンロートか、それか八峰キレットを撮ったやつもなかなかいい。雪の粉の写真もいい。もちろん爺ヶ岳南峰からの景色も。うーん選べない。さて次の雪山はどこになるでしょう。低山トレイルもまたいくつかやりたいところがあり、12月の週末の行方はまだだいぶ不透明。
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