表銀座(赤岩岳・西岳・赤沢山)


「百高山という意味では、あとは表銀座を今年のうちに歩かないと。これはさすがに秋でいい。」先週に南アルプスを歩いたあとの記述だが、これは驚くほどの速度でなかったことにされ、逆にそれがフリであったかのように翌週に表銀座を歩いていることになった。今週末晴れるならわざわざ不確実な秋まで先送りにする必要もないだろう、という勘定。

土曜朝に穂高駅を出るバスに揺られる。中房温泉は道路崩壊があってアクセスが制限されているから、そこまで混んではいないのではという見通しは甘く、駅は大混雑だった。バスは何台も駅で待機していた。観音峠で下ろされて、やや中途半端なところから登山スタート。

観音峠の数分先にある崩壊箇所。まだ復旧には時間がかかりそうな雰囲気がある。このすぐ先から中房温泉までの送迎車(無料)が出ていたが、天邪鬼なので車道歩きを継続することにした。

中房温泉から一気に森林限界へ。道中のハイライトはなし。強いて挙げれば人がとにかく多かった。送迎車によって車道で抜かされた多くの登山者を抜き返す。


表銀座縦走路と槍ヶ岳の眺め。途中は合戦小屋でオレンジジュースを飲むだけで、それ以外はほとんどノンストップ。汗で濡れ鼠になっていた。合戦小屋名物の西瓜をオーダーしてみても良かったかもしれない、と出発してから悔やむ。

燕山荘は素通りして、まずは燕岳へ。道脇にはコマクサがたくさん。

イルカ🐬にも再会。燕岳は4年前の印象が自分の中で大きいが昨年の秋にも餓鬼岳からの縦走で訪れていた。夏の迫る緑多い時期に来たのは初めてだから、知っているつもりでいる景色にもどこか新しさがあって面白い。

さながら家族のような株。先週の南アルプスではあまりハクサンイチゲを見られなかったが、それを補って余りあるくらいに北アルプスでは咲き誇っていた。

燕岳の頂上。当日朝から登り始める人々の大半がまだ稜線上に着いておらず、比較的に静かめな一時だった。もはや梅雨は明けきったとばかりの快晴だったが、昼が近づくに連れて雲が湧き上がり、山脈の手前まで迫ってきていた。

燕山荘でサイダーを飲んで、一休み。充分に時間の余裕はあったが長居せずに出発。見えているのは槍ヶ岳だが、まずは大天井岳に照準を定める。

なんとかすんでのところでガスをブロックする稜線。ガスに覆われたら涼しくなるのだろうかという葛藤はあるが、そうだとしても晴れてくれていたほうがさすがに嬉しい。

大天井岳が迫る。4年前に心細く歩いた山は夏仕様に姿を大きく変えて待っていた。最後の登り返しが苦しかったという記憶は、不思議に残っていない。喜作レリーフから約250mを上げる。

冬期は使用禁止となるトラバース路を使い、ピークをぐるっと巻くようにして到達。シンプルで気高い看板が立つ大天井岳の頂上。ガスはブロックされ続けた結果勢いを失ったのか、昼下がりにもまだ快晴がキープされていて、槍ヶ岳まで視界良好だった。

続いていく表銀座の稜線。西岳のあたりでカクっと右に折れ曲がり、槍ヶ岳の東鎌尾根に連なっていく。

初日は大天井岳の直下、大天荘に泊まる。やや早めに着いてしまった。寝床は板で仕切られてプライベート空間がよく確保されている仕様で、良い意味で驚いた。後から到着する人々もこれが一人分のスペースなのかと感嘆していた。
ランチ時だったが、ガッツリしたものよりは、と売店で買ったのがこれ。山のワーキャー飯はカレーライスだが、玄人受けするのはフルーツ缶。間違いない。甘くて生き返る〜。もちろん汁まで飲み干した。

テン場の入口は黄色い花の密度が高く、なぜかここだけお花畑のようになっていた。

手ぶらになって身軽なままパノラマ銀座を東天井岳まで歩く。常念岳の東尾根を歩いた回では東天井岳止まりになってしまったので、これで未踏だった東天井岳~大天井岳を結べるという狙い。

東天井岳から燕岳方面を見る。頂上に「東天井岳」とものすごく薄く書かれた木の板があったはずだが、見つけられなかった。

徐々に雲が目立つようになってきた。

大天荘の夕食。ハンバーグと鯖の味噌煮が選択メニューだったが、ハンバーグに売れ行きが偏りそうだなという印象を持ってしまう。というか両方食べたい。夕食は17時開始で、まだ外は昼のように明るかった。夕食後は寝床に戻り夏アニメをいくつか消化、19時頃には眠りについた。

翌日。2時半に起きるつもりが軽く二度寝してしまい、布団から出たのは2時50分。それでもまだ暗いうちに歩き始めて、表銀座を槍ヶ岳に向かって進んでいく。表銀座という代表的でありながら未踏だったルートを歩くということに加えて、百高山のスタンプラリーもこの日の目的である。

快晴の予感。


最初の百高山、赤岩岳に続くバリ状の急斜面を這い上がり、ハイマツをかき分けて見上げるとこの空が待っていた。加工無し。日の出直前、見惚れた。

赤岩岳の頂上の標柱。表銀座の登山道から5分強離れた斜面の上にあり、この斜面がぽろぽろと崩れやすいので難儀した。一人で歩く分には問題ないが、前に登山者がいる状態では下りたくない斜面だった。

常念山脈から太陽が顔を出す。先週に続いて、また稜線上を歩いている微妙なタイミングでの日の出となってしまった。

気がつけば大天井岳は遥か向こうに。

太陽光を探し求めるように斜めに花びらを広げるハクサンイチゲ。東に面した斜面には、気のせいではないくらいに西側より花の数が多くて、やはり朝は陽光を得やすいのだろうかと考える。

尾根の東側を歩いているうちに山肌が橙色に変わる好機は逃し、再び槍の穂先が視界に入る頃にはかなり日が昇ってしまっていた。

朝の景色にカメラを構えてばかりいると時間の経過の割に距離は稼げておらず、予定コースタイムに遅れをとり始める。

槍ヶ岳と北鎌尾根。北鎌尾根もいつか歩いてみたいという気持ちはあるが、いつになるだろうか。湯俣温泉からは、先に伊藤新道を歩いてみたかったり、あとは百高山という意味では南真砂岳も行かないといけなかったりする。

ところどころのお花畑に足が止まりがち。

ヒュッテ西岳を拠点に、赤岩岳に続いてまた百高山のピークハント。まずはよりイージーな西岳へ。ヒュッテから5分程で到達する。

西岳から南方向、ヒュッテ、赤沢山、そしてその向こうに穂高連峰。こうして見ると赤沢山は案外近いのだろうかという気がしてくる。

そして赤沢山。頂上の写真を続けて載せているが、そうサクサクと歩けたわけではなかった。赤沢山に至る下りと登り返しはハイマツが固い枝ごと張り出していて、歩くのが大変だった。体に何度か枝の先端を突き立てつつ、痛みに顔を歪めつつ、強引に進んでようやく到達した。これで表銀座の百高山は全て踏むことができた。

槍の先端に続いていく東鎌尾根。水俣乗越までぐっと標高を落として、そこから700m程上げていく。

槍ヶ岳までの登り返しの最低鞍部にあたる水俣乗越。「みなまたのっこし」だと思っていたらローマ字表記では「みずまたのっこし」となっていた。でもこの先のヒュッテ大槍のスタッフさんは「みなまた」呼びをしていた。

テーブル状の赤沢山と槍沢。赤沢山を百高山に入れた人は絶対に仕事ができない、と頂上に向けて歩いている途中は考えていたが、こうして一歩離れて見てみると、確かに西岳とは明らかに切り離されたピークで、存在感がある。

梯子の通行や岩の投降が数回。

そして東鎌尾根には唯一、この箇所だけ雪渓が残っていた。とはいえZ状に雪が切られていてアイゼンなしでも問題なく歩ける。表銀座はまだピッケルとアイゼンを持ってくるようにという案内がどこかのサイトで出ていたが、この週末にはもう不要になっていたと言えるだろう。

今回の山歩きで唯一出会えたライチョウ。警戒心の強い雄の個体で、初めは登山道上に居たのが、こちらが少し動くだけで遠くに離れていってしまった。

登り返しは苦しいが槍の穂先が近付いてくるのが分かりやすいのでモチベーションは落ちない。

ヒュッテ大槍に到達。表銀座の山小屋は、営業小屋は大天荘の次は槍ヶ岳山荘になってしまうので終始登山者は少なかったが、このあたりからは槍から下りてきたと思われる登山者とのスライドが発生した。

ハクサンイチゲと槍沢のカール。

槍ヶ岳山荘までの残りの距離がところどころの岩に2.0kmとか1.3kmみたいに書かれていて、その数字の割にはまだまだ山荘が遠くに見えるので却って疲労感を強く感じる。朝にinゼリーを一本飲んだのみで、エネルギーが不足してきたのもあるだろう。

山荘に到着。ザックを置いて、身軽になって穂先を往復する。

約1年ぶりの槍ヶ岳頂上。雪の景色とも秋の景色ともまた違う、夏に近付いていく薄ゼブラ模様の景色が展開していた。頂上にはそこそこの人数が滞留しており、数枚の写真を撮って早めに去る。

今日も快晴の景色に感謝。槍ヶ岳の頂上は4回目(山行の回数では3回)だがその全てで晴れてくれている、ありがたいことだ。

笠ヶ岳の向こうに白山確認。アルプス以上に白の存在感が強い気がする。

山荘に戻ってきて、ここでようやくエネルギー補給。大天荘で貰ったお弁当を広げて、山荘の自販機で買ったきりっと果実とともに胃に収めた。お弁当はご飯がぎっしり詰まっていて見た目以上にボリューミー。鮭も美味しかった。

西鎌尾根の百高山、樅沢岳はずいぶん前に双六岳、笠ヶ岳を歩いた際に踏んでいたので、今回は槍平に下りるルートを選択。白出沢にせよ槍平ルートにせよ、新穂高側と槍穂を結ぶ道は下山時にしか歩いたことがないので、どうにもここを登りで歩くというのは精神的に耐えられなさそうだという気がしてしまう。槍平まで距離も標高差も想像以上に大きい。

沢との出合を越えていく。これは滝谷レリーフのところで、遠く向こうに穂高連峰の岩稜が見えている。大きくて安定していそうな足元の岩が、体重をかけてみるとぐらりと動いて冷や汗をかく、というような瞬間がゴーロ地帯で何度かあった。

足元が安定していない下山路を延々と行くのはストレスが溜まるので、林道歩きはオアシスのようにすら感じる。景色が変わり映えしなくてつまらない、というのはあるが結構疲れが溜まっているので、刺激よりはさくさく歩ける快適さの方が嬉しい。

新穂高の登山センターに到着。少ない小銭をなんとかかき集めて自販機でラムネを購入した。しゅわしゅわとして美味しい。

ここで終わりではないのがここ最近の山行。新穂高からバスで移動する手もあったが、平湯からの帰りのバスの時刻を考えると徒歩移動がちょうどよくハマりそうだったので、歩いて温泉に行くことにした。約12キロの車道歩きを経て、福地温泉エリアの奥飛騨ガーデンホテル焼岳に行った。サウナ、ぬる湯など完備でとても良かった。

湯上がりにはクーリッシュ。吸う系のアイスは手がベタベタしないので重宝するが、それを軸に探すとクーリッシュのバニラ味ばかり食べることになってしまう。チョコ味のクーリッシュとか、あるいはパピコがあったりすると助かるのだが。温泉から平湯まで4.5キロ、最後に歩いて、バスの時刻にちょうどよく平湯に着いた。

これで、縦走でまとめて歩ける未踏の百高山ピークはすべて制覇完了。あと残りは北から剱御前、南真砂岳、小太郎山、大沢岳の4つで、どれも単体で攻めるしかなさそうな位置関係である。今年中に歩ききりたいが、大沢岳が難敵である。もう夏本番、避暑でしばらく家に籠もりたい気もする。
6月は一か月で100万歩を歩いていた。会社のウォーキング企画がてら、ということで畑薙から接岨峡まで歩いたり新穂高から平湯まで歩いたりというわざとらしい歩行が何度かあったが、それでようやく100万歩かぁ。

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