「Aルート」の命名者は私。相模原に住んでいるうちに歩かなければいけないシリーズ、藤野15名山と丹沢から山中湖への縦走、後者は踏むべきピークを数えていくととても一度の縦走にまとめきれないので、分割することにした。前編がAルート。宮ヶ瀬湖から丹沢湖を経て、山中湖に繋ぐ湖巡りの縦走路。Bルートは甲相国境を行く、なんか冷静に考えてみるとこっちの方が「A」という感じのする、王道のようなルート。Bルートは年が明けてから、ヒルが活動を始めるまでのどこかで歩こうと計画している。
土曜朝、自宅から宮ヶ瀬湖まではタクシーを使った。バスの始発では鳥居原も宮ヶ瀬も到着が8時前となってしまい、後のスケジュールを考えると心許ない。湖巡りが聞いて呆れるような、遠くにどうにか見えるというくらいの宮ヶ瀬湖。まあ、この辺はご愛敬ということで。。
雲の裂け目から朝日が射す。連日の冬型気圧配置でこの日も快晴の予感、だから日焼け止めはしっかり塗った。冬は、歩いているうちに体がぽかぽかして、その温度差からか鼻水がたらっと流れて、そうすると鼻水が日焼け止めの成分を流してしまうのか、いつも唇の上がやけに日焼けで痛む。たぶんまたそうなるんだろうなと諦めながら、鼻をすすりつつ黙々と歩く。
宮ヶ瀬湖から丹沢山までは11kmとのこと。地形図では登り一辺倒という見え方だが、実際はそこまで苦にならない。そこそこ長い距離を使って、ゆったりと高度を稼ぐからだろうか。他の登山者とのスライドは丹沢山まで皆無。概ね歩きやすい道が続く。朝のうちは霜柱もまだ融け出す前でザクザクと固くて、踏んで歩いていくのが楽しい。
およそ4年ぶりの丹沢山。以前は元旦に大倉から蛭ヶ岳までのピストンをした。丹沢の峰々は、ふだん自宅周辺からもよく見ているのに、この中枢部まで分け入ってきたのがまだたった2回だけというのは、いかにも灯台下暗し。
丹沢山で、丹沢あんぱんを食べるという営み。金曜夜に橋本のオギノパンで4つ調達してきた。大きさの割に高いが、丹沢を歩くとき食べたいとずっと思っていた。程よい甘さが身体に染み渡る。
纏わりつく雲が風の強さを想像させる富士山。そして富士山ほどは強くないながらも、丹沢の山々にも時折冷たい風が当たる。これではさすがに半袖で歩こうという気にならず、手袋と上着はほとんどずっと身に着けたままだった。
塔ノ岳まではすれ違いが多く、我慢の時間。一際近付いたように感じる相模湾を見納めて、鍋割山方面へ曲がっていく。
大倉尾根ルートを離れると一気に人の数が減って安心するものの、鍋割山荘でぎょっとする程の人だかりが現れてまた驚かされる。鍋焼きうどんに大行列ができていた。実態はよく知らないが、40分待ちだの1時間待ちだのの言葉が耳に入ってきて、くらくらしそうになる。
丹沢あんぱんでいいのだ。
鍋割山から先、雨山方面へ縦走路を続けていき、伊勢沢ノ頭から林道に下りた。あまり踏み固められていない、ふわふわとした足元だが、とりあえず尾根筋に歩いていけばそう大きく外すことはないので、破線ルートにしては良心的と言えるだろうか。林道に降りてからは、だらだらと歩きたい気持ちをぐっと抑えて、ランニングで玄倉まで進んだ。
丹沢湖。神奈川に住んでいて、山にも行く人なのに、これが初めての丹沢湖。湖畔を歩くことも、なんなら目にすること自体も初めてだったかもしれない。「一瞬の風になれ」を今年の夏に読んで、そういえばあの話の中で丹沢湖が出てきたなと思い出す。
橋を2つ渡って、初日は終わり。一日あたりの距離約30km、登り標高差2,500mは、無雪期の連泊山歩きにおける一つのマイルストーンかもしれない。
この日は落合館に泊まった。お風呂は温泉ではないものの早めにチェックインしたことで大浴場を独りでゆったりと占有でき、また夕食も美味しく、満足。朝食をスキップして出発する行程にした自分を、恨む。。
2日目、日曜日。丹沢湖から三保ダムを下って、山市場の吊り橋から不老山への登山道に入っていく。ダム横を下りているときは月明かりだけだった空は、だんだんと明るくなってきて、この日もまた冬型でよく晴れそうな予感がしてくる。
冬の角度の浅い太陽は、いかにも朝だなと感じさせる横からの光の当たり方をしばらく続けて、森の中に木々の影の独特な模様を描いた。どこにいるのか、人の気配を感じた野生の鹿がキャンキャンと絶え間なく鳴く。本当にキャンキャンと鳴くのだ。
不老山の先で視界が開けた。富士山の周囲に雲一つない。早くあの手前のピークを過ぎ去って、なにも遮るもののないところから富士山を見たい、と少しだけ気持ちが急く。
明神峠から三国峠は車道を渡っていく。なかなかはっきりと見えない富士山の代わりに、後ろを振り向いて、昨日より一段と澄み渡った丹沢の山塊を眺める。山座同定が全然できない。
三国峠から鉄砲木ノ頭まで、本当に駆け上がるようにして砂っぽい斜面を登り、ついに見えた。山中湖と北富士演習場の草原と、富士山の巨大な姿。宝永山は、まだそこまで雪が積もっていなさそう。ということは雪化粧しているのは2,700mくらいから上か。山中湖の青は空の青。富士の裾野の青は、それとはまた異なる青色だった。
最後の丹沢あんぱんを頬張った。丹沢から歩いてここまで繋げられるのだ、ここは丹沢の続きなのだという主張をひっそりと込めて。
三国山からいくつかのピークを繋いで、立山の須走展望台まで来たら縦走は終了。展望台はそこまで視界が開けているわけではなかった。雲が少しずつ山体に近付いて、雲一つない時分に鉄砲木ノ頭に立てて良かったと改めて感じる。
びゅんびゅんと脇を抜けていく車に怯えながらなんとか山中湖の湖畔まで下りてきた。御正体山から平野まで縦走したとき以来の山中湖。湖面が標高約1,000mと、稜線からあまり下りてきた気分がしないので、なんだか不思議な感覚がある。だから縦走は、山中湖側から歩けばその分登り標高差をセーブできるのだが、とは言ってもなかなか簡単にそっちに逃げられない面倒くさい性格で、なにより山中湖はゴールとして何となく相応しい感じがする。
適度なロード区間は良い息抜きになる。5km程歩いて、これまた久しぶりに紅富士の湯へたどり着いた。Aルートはここで終了。温泉は、空いてはいない、しかし芋洗いというほどでもないという人の入りだった。サウナと露天風呂があれば自分の中では100点である。
風呂上がり、ほうとうで炭水化物を摂った。大きいかぼちゃのピースが2つ入っていて、美味しい。ほうとうの前にはきな粉溢れる信玄餅アイスも堪能した。せっかく消費したカロリーが戻ってきてしまうので、なんだか口惜しい気もしたが、歩き終えた後特有の鷹揚な気持ちで、まあいいかと思ってしまう。
Bルートは、おそらく石割の湯がゴールになるだろう。暑いのはイヤ、ヒルもイヤ、花粉もイヤ、などと言っていたら、歩ける時期の候補は案外多くない。年始の早いうちに歩いていることになるのかもしれない。
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