越後二+一(ニたすイチ)山ですからね、二十一(ニジュウイチ)山ではないので、悪しからず。ところで、芥川賞を受賞した「バリ山行」をようやく読みました。読みやすくて面白かったー。150ページ程とそこまで分厚くないながら、山によく出かける人にとっては何かしらずっしりと残るものがあるのではないでしょうか。お気に入りの一節。"妻鹿さんは手帳を捲った。月曜から土曜までびっしりと細かい文字で予定が埋められている。しかし日曜の欄だけはくっきりと空白が守られていて、ただ一文字、「山」とだけ書かれてあった。私は胸を衝かれた。" バリ山行のバリは、バリバリ登るということかと思いきや、バリエーションルートのバリでした。
週末は帯状高気圧に覆われ、しかも連休ということで、どこも盛況だったのではないでしょうか。私は金夜にフライング出発をして、郡山に前泊。土曜は朝日連峰。その日のうちに下山して越後まで移動し、日曜月曜は未踏の二百名山を効率よくまわってきました。
朝日連峰は以東岳が目的です。さすがに紅葉時期とだけあって、ダートを走らないと辿り着けない泡滝ダムも登山者の車で混雑していました。大鳥池を囲うような周回路を歩くことにし、登りは直登ルートを進みました。森林限界を過ぎると色の変わり始めた山の景色がとても良い。
以東岳の頂上直下にある避難小屋。ちょこんと立っている姿が、遮るもののない景色の中だとなんだかミニチュアの模型のように見えます。ここは20名程度で満員になってしまうという内容の注意書きが、大鳥池のタキタロウ山荘で出ていました。
秋の週末の朝日連峰は、4年前に竜門小屋に泊まって歩いたことがあります。思い返せばあの時も小屋はギチギチでした。竜門山、大朝日岳の方面にはるかに稜線が続いていきます。秋真っ盛りという程に色鮮やかという感じはしませんでしたが、今週末には冬型気圧配置が予測されていて、もうすぐに冬の装いに変わってしまうのでしょうか。
ここに限らず、朝日連峰の避難小屋はどれも引きで見たときにはそこはかとなくミニチュアっぽさを感じます。
オツボ峰をまわって大鳥池まで下りていきます。登りには直登ルートを選ぶ人が多いようで、後半はすれ違いも多くなくスイスイと快適でした。大鳥池と泡滝ダムまでの間が結構長い。通算で21kmを超える歩行距離となり、これにバイクの移動も約500km分が乗ってくる(郡山から鶴岡まで、また鶴岡から長岡まで)のだからこの日はなかなかにタフです。
そして日曜日。越後川口の温泉ホテルを値段ほどには満喫していないうちに出発して、八海山に向かいました。八峰を巡るのは時間的に優先できず、新開道から岩のピークの中では大日岳だけを踏んで、入道岳、五龍岳と繋いでいきました。
昼間の写真は一気に飛んで、中ノ岳から見る夕方の越後山脈。日中は五龍岳から中ノ岳までの破線ルート("バリ"ではない)をのろのろと進んで、その間は夏の空のようにガスが流れたり途切れたりを繰り返していました。13時頃に小屋に二番乗りして、うとうと微睡んでいたら、外が晴れているような気がして出てきたという次第。
西日が当たるとただでさえ格好いい駒ヶ岳が燃えるような色を見せてくれて、不意に夏から秋への移り変わりを感じ、またアーベントロートの綺麗な冬の近づいているのを同時に意識しました。
すっかり日の短くなった秋の日に、太陽は静かに沈んでいきました。静かでなかったのは小屋の夜。17時やら19時頃に到着する人もおり、当然その頃に小屋はギチギチの満杯で、スペースを捻り出すガサゴソとした音が夜半まで途切れることなく、寝不足のまま早朝のアラームを聞くことになりました。
前夕と同じくらいの角度で射す太陽の光、しかしこれは東から届く朝のオレンジ色です。中ノ岳を出て最初のピークは兎岳。
兎岳は真正の越後三山の展望台という様相で、八海山から駒ヶ岳まで横並びのようによく見えました。中ノ岳が赤く染まるモルゲンロートのひととき。
秋の山ではとりあえずナナカマドの実をフレームに入れておけばそれっぽいアクセントになるという心理。あると思います。奥に見える三角形のシルエットが、この日に目指す荒沢岳の頂上です。
丹後山方面に続いていく稜線を、滝雲が滑っていくドラマチックな風景。丹後山まではさすがに行きませんが、大水上山までは稜線を寄り道しました。大水上山は利根川の水源です。ピークはこの滝のなかでした。
兎岳に戻る道の途中、ひさしぶりにブロッケンを見ました。
朝の滝雲に端を発するガスの流れが一段落して、荒沢岳方面への縦走路はまた展望の良い区間が続きます。中央のこんもりしたピークは源蔵岳、その奥に灰ノ又山。赤や黄の勢力はまだそこまで強くないながら、これくらいの景色だってとても好みです。
縦走路ということでアップダウンが続きますが、登りにせよ下りにせよ冗長な感じはなく、きびきびと歩けるのでそこまで苦しくはありませんでした。途中ですれ違うパーティに軽装の人がいたりして、どこから出発してきたのだろうか、ひょっとして未明に銀山平から? などと少し気になりました。
荒沢岳の頂上から奥只見ダム方面を眺めます。この3日間の連休で一番といえる晴天でしたが、時折吹くそよ風は秋らしくひんやりしていました。ここ最近は15Lの小ザックばかりだったので、久々に重いザックを担いで歩くのは身体に堪えましたが、このくらいの涼しさならば良い塩梅です。
銀山平の白銀の湯に浸かり、15時の船便に合わせて船着場に出てきました。白銀の湯はちょっと目を疑う程にカメムシが大量発生していましたが、内湯は気持ちよかったです。船は、奥只見湖を渡って、陸路ではシルバーラインでしか辿り着けない奥只見ダムまで向かいます。シルバーラインはバイクが走ることができないので、奥只見ダムに行くにはこの水路か、バスに頼るしかありません。
湖上から見る奥只見の山々はまだ緑の色彩が強く、秋最盛期にはもう幾日か要しそうでした。それでも日が傾くとすっかり肌寒く、ダムを17時過ぎに出るバスに乗って浦佐駅まで向かいました。浦佐から新幹線で帰られれば楽ですが、八海山の登山口にバイクを置きっぱなしです。タクシーで回収に向かいました。登山口には、さすがにもう一台の車も残っておりませんでしたが、明るい月の光が木々の隙間から差し込んで、それほど心細くはありませんでした。夜遅くなったおかげで関越道の渋滞もピークを過ぎており、22時過ぎには相模原に帰ってくることができました。
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