仙水峠を周って高度を稼ぎ、薄明に駒津峰に辿り着いた。目指す鋸岳がハイマツの向こうに浮かび上がる。鋸岳の標高は、実はいま立っている地点より下にあるのだと思い出す。稜線のギザギザ模様は、歌宿あたりの林道から見る程には顕著ではない。
雲をかき分けて朝日を浴びる早川尾根。栗沢山、アサヨ峰、向こうの鳳凰三山と、黒黒とした山が群れをなす。
摩利支天を経由して甲斐駒ヶ岳の頂上を目指していく。雨の翌日で、心なしか空気が澄んでいる。
甲斐駒ヶ岳は、日本に数多ある駒ヶ岳たちを束ねる頭領でもある。晴天の甲斐駒を味わえて良かった。かつて冬に黒戸尾根から登り、たいへんな思いをしたのに、頂上は雲に覆われていて苦渋を飲んだことがある。何も見えないのに寒さだけは一流で、-20度を下回る気温が二代前に使っていたスマホをノックアウトした。今日、夏から秋に変わっていく日の晴天で、記憶を上書き更新する。そしてここは今日、まだ通過点にすぎない。
例のルンゼの先に視界に入る、2本の剣の突き刺さった岩。上からも見渡すことができた。
北沢峠と黒戸尾根を繋ぐルートを外れて、いよいよ鋸岳に向かう。アップダウンはあるにせよ、単純なピークの標高の差分で300m落とすわけで、高度感のある眺めの中に着地点を見定めるような気分になる。
明瞭な稜線を繋いでいけばそのうちにいやでもピークに辿り着くというわけではなく、合間合間の樹林帯の歩きでは、踏み跡がどういうわけか取っ散らかっていて、ルートファインディングにGPSとの小まめな突き合わせにと意外に時間を要した。
第2高点手前のザレ登り、の手前から。ここまでは青空が見えていた。ザレの中にジグザグに刻んでいくような踏み跡を見つけて、あそこを辿っていくのだなと見当をつける。
このザレ登りが曲者で、時々ガラガラと石を転がしてしまっては青ざめる。下からはジグザグの踏み跡がはっきり見えていたはずなのに、いざ歩き始めるとどうにも自信を持てず、思い切って踏み出した箇所が明らかに踏みならされていない浮石の集積だったりして、その度にそろりそろりと道を戻す。そんな風に時間を使っている内に周囲にはガスが立ち込め、第2高点を踏む頃にはもう一面が白色の空間となっていた。
第2高点からは一度戸台川の側に100m以上落として、再度長い鎖でその分を登り直すという順序となる。この長い鎖の箇所ではさすがに首から下げていたカメラをザックに収納した。この一登りのラストに待つのが鹿窓であり、ふと顔を上げると黒い岩の隙間に光が射すのが登りの中盤頃から見え始めて、これがなかなかモチベーション維持の助けになる。
鹿窓から鋸岳の頂上まではもうそこまで長くない。鎖の下降と上昇を一つずつ挟むが、これも鹿窓までの鎖に比べれば短いもので、アスレチックという様相。カメラを取り出すマージンもあるので、記念に一枚くらい鎖場の写真を収めておくことにする。
鋸岳頂上。釜無川の林道ゲートからここまでを往復する人が想像以上に多いようで、こここら先は登山者と何度かスライドした。
富士川水源まで下りれば、あとはひたすら長い林道歩き。ゲートまでの9.2kmに加えて、そのまま温泉に行くことにしたからその分も距離が延びる。さすがに黙々と進むのも辛いので音楽を鳴らしつつ口ずさみつつ歩いた。道の駅に併設のつたの湯まで行こうかと思ったが、列車の時間を逃しそうだったので白州塩沢温泉に行った。
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