富士山


表紙画像: 波立つ雲の海

夏に富士山に登るなんて。俗のなかの俗、せめて登るなら残雪期、GW頃にするかと思っていた。1にも2にも、夏は絶対に混んでいる。道で詰まる。そして喧騒。景色と体験がもたらすプラスを、吸い込まざるを得ないマイナスが凌駕して、陰惨な気持ちになる。そうは分かっていても、他に目ぼしい山がなく、晴れると聞いては検討せざるを得ないのが悲しい性か。
富士山は幼少の頃に親に連れられて吉田から登ったことがあったが、それは随分と前の話で、先日の農鳥岳で国内3,000m峰は登りきったと数えていたが、自分の意志で山に行くようになって以降では唯一未踏の高峰ではあった。その、過去の登山時は8合目で1泊、その日はよく晴れたものの翌日はガスに覆われ、無念の登頂だった。‥ように記憶している。今回は土曜、日曜とも天気は良好との予報。宝永山を絡めて歩けるように、富士宮から入ることにした。


と、その前に土曜日は三ツ峠山で足慣らし。本当は毛無山に登ろうかと思っていたが、朝寝坊してしまったために断念した。結果的に、毛無山のある天子山地は厚い雲に覆われていたようで、この変更は功を奏した。中央道を走っている頃は黒く大きく見えていた富士山は、三ツ峠の登山道を進んでいる間にすっかりガスの中に隠れ、あまり実のある山行ではなかった。

最近購入した虫除けグッズ、オニヤンマくんの性能がなかなか良好と判ったのは収穫。帽子には上手に付けないとぷらぷら動いてしまって鬱陶しい。

三ツ峠グリーンセンターで汗を流し、所を移して水ヶ塚公園へ。オンシーズンは富士山スカイラインを走ることができず、ここを経由する必要がある。富士山スカイラインは、4年前に一度バイクで走った。標高2,350mを超え、普通の車が走れる道路では国内で一番高いところにある。(普通の車、でなければ乗鞍スカイラインが最高所)

シャトルバスで5合目に到着。午後遅めの時間だったのでガラガラだった。一層目の雲は超えたようで、想像していたよりも眺望はきいていた。

特に感慨はなく入山。この日はほんの少しだけ歩いて6合目まで。

夏の午後は雲が沸き立ってダメだという先入観を持ちがちだが、こと富士山においては、日を選びさえすれば一定高度より上では快晴ということもよく見られるのかもしれない。

山小屋はなかなかの汚さだった。コロコロ掛け(粘着のテープでゴミを取るやつ)くらいはしてほしい。シュラフを持ってこなかったことを割と本格的に後悔した。

日が長く、19時過ぎに小屋の外に出てみてもまだ周囲は明るかった。日の入りはガスに阻まれて見られず。翌朝のことを考えて、早めに眠りについた。

夏の富士とはいえさすがにまだひっそりとした2時過ぎ、小屋を発つ。時折ヘッデンの光が近付いたかと思えば子連れ登山客だったりして、驚く。単調な道なので、黙々と歩ける、人も少ない夜中に登るのがやはり正解か。そうは言ってもところどころで遅行者の引き起こす長大な渋滞があり、心が引き攣る。次第に空が白み、麓の夜景が雲の切れ間に瞬いた。

気が付けば、という塩梅で富士宮口頂上に到着し、幸いにも日の出前だったのでどこで日の出を見ようかと思案した。人の多いのは吉田口頂上方面、何となくそれは避けたくて、近くにあった岩の塔に腰掛けることにした。東の空が真っ赤に染まった。

ご来光

剣ヶ峰モルゲンロート。風は驚くほど穏やかだったが、登りのときの半袖のままでしばらく居たので、少しずつ冷えてきた。体の芯というよりは末端が冷たく、冬の山で感じるようであった。

影富士、との声が聞こえて、もう?と思いつつ下方向に目を向けたものの、影富士はなんと屹立していた。なるほど抜きん出た独立峰だから、夜明けには山体そのもののシルエットが向こう側に立つのかと、新鮮だった。

光が飛び込んでくる

十数分の待機列を経て、剣ヶ峰の標柱。逆光で文字が読み取れない。記念写真は要らないです、と断って、単に前の人の写真を撮るだけのボランティアのようになってしまった。

これもきれいな影富士

分かりやすく好天で、確かに人は多かったが、もう一度登りに来たのは正解だった。幼少期にはパスしたお鉢巡りも快適に歩ける。

お鉢

あっという間に一周。手がかじかんだので、吉田口頂上付近の小屋で熱いココアを飲んだ。1缶400円。もっと目が飛び出るような高値だと思っていた。

剣ヶ峰の記念撮影渋滞は凄まじく伸びており、人の多さを見てもここらが去り時と思われた。下山は途中まで御殿場口ルートを取る。もともと登りでここを選ぶ人は比較的少なく、下山がてら宝永山にタッチできるという利点もあって、富士宮ルート→御殿場ルートの周回を選ぶ人は多そう。

大股で歩いているとあっという間に頂上が遥か彼方へ

大粒の砂礫を靴の中に詰め込んで、宝永山に到着。砂走りは楽しいが、黒色の砂粒がしっかり靴下と靴の中敷きを汚すので、あんまりいい気分でドカドカ歩いていたら洗濯時にはげんなりさせられた。

愛鷹山、伊豆半島、駿河湾が近い

宝永火口、蟻地獄のよう

ここまで来れば富士宮口5合目は目と鼻の先、どこか違う惑星のような風景の中を歩き、シャトルバスの始発の時間より早くに帰ってきてしまった。
バス停の最前列で、写真を整理しようとSnapBridgeを開いたが、最近カメラのSDを大容量のSDXCに変えた影響か、無線接続が出来なくなってしまっていた。ぼんやりと時間を潰す。帰りのバスはほぼ満席で混んでいた。汗を流しに山中湖の方まで行ったものの、ここも混んでいて早々に退出した。そうか、世の中は夏休みに入って最初の週末だったかと、ここでようやく思い至った。暑い暑い道志みちを上って、午後早くに相模原に帰着。

6月の焼石岳(ハクサンイチゲ)、7月の白馬三山、同末の和賀岳・秋田駒ヶ岳(ハクサンシャジン)と、記録がだいぶ滞っている。夏山は裏銀座、読売新道を歩いてみたかったが、休みを取れそうにないので秋に持ち越しか、あるいは来年か。そもそも、来年は来るのだろうか。会社の辞令がそろそろ出そうな雰囲気があり、その結果次第では或いは。

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