白山

表紙画像: 雪残る室堂と別山からの縦走路

今年の白山。4年目、御前峰はもう5度目。継続することが一番大事で一番難しい。登る間は別に今年で打ち止めでいいのではと考えてしまうが、頂上で景色を眺めているといつの間にか来年は何月に来ようか、今度はどういうツーリングと組み合わせようかと、単純なものである。去年に登った後に今度はもう少し"白"山である頃に来ようと決めた。それで、1か月前倒しのタイミング。今年は別当出合が閉まっていた。根拠のない感染症対策には閉口するしかないが、こういう時だからこそと考えて、市ノ瀬起点・別山からの周回縦走とした。別山からの縦走自体は前々から興味があった。学生の時に初めてキャラバンを買った好日山荘の店員がこの縦走路に言及していた、ような覚えがある。(初めて買ったキャラバンも、白山というシンプルで格好良い名前の山に登ってみたくて手に入れたのだ) 別山から歩く以上、流石に自宅との往復も含めると土日だけで済ませるのは難しく、月曜に休暇を取った。

土曜日、前日譚。ダイヤ浜と水晶浜を歩く。紀行の一番最初に撮ったダイヤ浜の浜昼顔の写真が、実は(白山で撮った写真を差し置いても)一番気に入っている。サーファーで混み合う水晶浜に対して、ダイヤ浜で泳ぐサーファーは1人だけであった。それを段状になった浜辺に座って、日傘に隠れて眺める女性。絵になっていた。


この日は午後になるにつれ海沿いに青空が戻った。東名・名神で1日かけてここまで来て、それまで大半は曇天の下だった。敦賀で高速を下りて、そのまま宿へ直行するかとも迷って、否せっかくここに来たのだからと美浜に寄ったのが正解だった。

竹波のバス停も見るほどに何かの聖地っぽい。不可視境界線の海岸のモデルはこの近辺。(美浜の海岸線一帯)

日が傾き始め

荒天の名残か波は少し怖いほどに強く打ち寄せる

海岸線は美浜原電へ続く


芦原温泉に行こうかと思ったが、あまり温泉地らしいのも騒がしそうで性に合わないと考え直し、武生にポツンと見つけた温泉に泊まった。気持ちの良い湯だった。

日曜日、越前市を早朝に出発して、市ノ瀬へ。朝から小雨が降ったり止んだり。ここで停止するのは本当に学生の頃以来だ。以降は別当出合まで行くのと平瀬道のみ。かつて前泊地として使用した野営場は現在休止中で、別当出合まで車道歩きか市ノ瀬を起点とした登山道を選ぶか。

別山道は工事用の道路に誘導されかけやすく、入り口の猿壁を見落として数百メートル戻った。この道から直接別山へ登り上げる。午後から天候回復との予報で、稜線に上がる頃にはどうにかなっているだろうと期待した。

ラショウモンカズラがお出迎え

雨の日は雨の日なりに見ものを探す
植物類を楽しめるのはまだ標高の低い一帯

シダにピントが合ってしまった
その下に巨大なヒキガエルさん

思ったより早くから陽射しが届き始めた

樹林帯部分は倒木や登山道に張り出してくる木の枝が多くてなかなか厄介。チブリ尾根避難小屋の手前で景色が開ける。

人がいた
ので思わず撮ってしまった
御舎利山手前に厄介な(道筋の不明瞭な?)雪渓帯が一箇所

ガスが流れたりまた真っ白な視界になったり、その繰り返しの中で主峰群の存在だけははっきりそこに感じる

崩れかけの石室

別山頂上で2組、3人とエンカウント。西面はガスの勢力強く、南東面は比較的晴れていた。

いざ道なき道を征く縦走路。トレースが無いのは前日の雨で消されたのか、あるいは本当にほとんど人が入っていないのか。

見え切れないだけで主峰群の存在感はどんどん増していく


別山と南竜の鞍部で見つけた施設は砂防ダム関係のものだろうか

細かいアップダウンと踏み抜きの連続、好き勝手に枝を張り出して道を塞ぐ低木、ガスを流す西からの強風に四苦八苦(本当に四苦八苦)して、南竜手前の登り返しにはもう苦笑いしてみせる余力もない

えいやと登り上げて、ここまで来れば安心する。野営場付近は未だに真っ白な雪に覆われていた。今年は雪が少ないと各所で聞くので、ひょっとして昨年6月のコンディションと似たりよったりなのではと思っていた。早く来た甲斐はあった。


南竜山荘の脇で遅い昼食とした

晴れる間際の雲は暴れているようで面白い(最後っ屁というような?)

昨年は中途半端に雪解けしていて未明の暗闇の中撤退したトンビ岩コースも、雪面だけで繋げるのであれば問題ない。それに歩くほど視界がクリアになる。標高を上げるペースは一向に伸びない。

トンビ岩の背後はまだガス残る別山方向

澄み渡った青空の先に

ようやく現れた御前峰。
コース上、晴れていれば当然もっと前から見えていたのだろうが、ここまでが長かったこともあり今回は心底特別だった。

頂上まで残りコースタイム1時間とはとても思えない、本当にこの手が届きそうなところに山頂が見える。何度もカメラの望遠を使って奥宮を確かめた。

雪面の先に雲海が続いているみたい

室堂が埋まりかけていて、そう、こういう季節に来たかったのだ

屋根を歩いてみたくなる気持ちを抑える

ビジターセンターはもう大体全貌が見えるようになっている

翌朝のお日の出を見られればそれで良い(したがって初日は室堂で休止で良い)というプランは、この青空に忘れ去られて、ここまで何キロ歩いてきたとかは関係なく頂上に行くことを決めた

薄く月も

取り付き点を間違えてハイマツに飲み込まれた。左、慌てて戻ってくる自分のトレース。右、正しいトレース。おそらく砂防新道から登り上げる人が多いのだろう、室堂周辺は足跡がよく残っていた。

中段くらいまで登る
粘り強く別山を隠していたガスもこの頃にようやく晴れ渡った


日曜夕方、きっと誰も居ないだろうと思っていたから、高天ヶ原付近で1組(3名)にすれ違ったのは少し驚いた。その後はもう他に誰も居らず、展望と強風の奥宮に到達。

そしてここに立つ

大汝峰側から猛烈な勢いで風が吹いてきて、岩陰から少し身を出すのも恐ろしい。でも写真を撮らずにはいられない。半目になって頑張った。

風を遮ってくれる岩の陰なら快適。朝の荒天は本当にどこへやら。残雪中期と後期の真ん中くらいのタイミングで来られたのだろうか。それじゃあ、来年はいつにしようかなと例によって。

別山からくっきり主峰を見られなかったのは来年以降への積み残し

アルプスも御嶽山も上部に雲が残っているように見えた。見渡す高山でここ白山だけが青空の下にある。そうだとしたら、何という幸運。

西日を映す日本海の海原もしっかりと見えた

下りている頃にまた中腹部から少しだけガスが昇ってきて、別山縦走路が天空の道という風に見えた。それにほんの少しだけアーベントロート。

西へと傾く

背の伸びる時間

室堂の冬期開放小屋には高天ヶ原ですれ違ったパーティと思われる3名が先着していた。入り口が狭い上に梯子を登らないといけないので、(開放してくれているだけありがたいのだが)若干不便ではある。時間に拘らず常時真っ暗な内部に面食らい、水気の少ないカレーを口にして早目に横になった。勢いよく吹き出す冬の室堂の水場の水は、少し砂っぽい後味がした。

月曜日、午前中は天気が持ちこたえるとの予報で、初めてのお日の出を見るべく未明に出発した。前日より風は収まったものの雲の面積が大きく、ついにオレンジの光は射さなかった。日の出は見たが山頂に間に合わなかった昨年、山頂に間に合ったが日の出は見られなかった今年。こういうことが続くから、また来なくてはと考えてしまうのかもしれない。

収まったとは言えども風はそれなりに強く、トレースのないお池巡りコースに少し緊張する

深いクラックの入った雪渓と大汝峰

ようやく雲の隙間から日光が射してきて、気持ちだけのモルゲンロート

雪に割れ目の入った翠ヶ池。知育玩具のパズルみたいに分かれている。あの氷塊の上に乗ったらぷかぷかと浮かべるのだろうか。

大汝峰にも登って、剣ヶ峰と御前峰のいつもの構図。一昨年、昨年と雲海上に見えてくれた御嶽山は今年は無し。でも雪の量はこれまでより多い。平日朝、御前峰でも大汝峰でも誰一人他の登山者に会わない。

深いクラックを間近で見るとゾクゾクする

お池巡りコース終盤、この時期はまだ室堂まで雪面を繫げられる。室堂どころか弥陀ヶ原まで真っ直ぐ歩いても良い。

ピンクテープの道標

高曇りの空となって、もう後ろ髪を引かれることもない。黙々と観光新道を下りていく。後半を車道歩きで片付けるのも勿体ないので、観光新道+禅定道で市ノ瀬に降りるルートとした。

別当坂分岐を過ぎると眼下に別当出合の吊り橋が見えてくる
早く下山してしまいたいという思いが増す


道を彩るイワカガミ

結構歩いたつもりでもまだ残り3.8キロ。指尾、六万と微妙な登り返しが2日間歩いてきた足に響く。頂上周辺から長い観光新道・禅定道を通して人っ子一人遭遇することがない。心細さが楽しい道だった。

釈迦新道との合流点まで下りてきた。ここまで来れば市ノ瀬は目と鼻の先。動物はほとんど出会わなかったが、ヘビなら4-5回見た。低高度帯では虫もブンブンと鬱陶しく纏わりついてくる。ドライな冬の晴天がすぐに恋しくなりそう。

県道33号線のオレンジミラーが目に入るとふっと安心感で脱力する。冬期閉鎖中の区間と思って車道を闊歩していると、工事関係のトラックや自動車がそこそこのスピードで通過して肝を冷やした。

路側にちょうど良く水の流れてきているところがあり、アイゼン洗濯場として使った

ポツンと残されていた

後日譚は少量。能登半島は走ったばかりで、今回は特別の心残りもない。高曇りの空は平地でもさほど変わらず、今年は(別当出合と同じ方針で)なぎさドライブウェイも閉鎖され続けている。2週前に走れなかったのは荒天のせいだとばかり思っていたが、真相は違った。山側環状を経由して、湯涌温泉へ。

のぞみをしたためる。ここでのぞみ札を吊るすために毎年来ている側面もある。湯涌稲荷はいつの間にか晴天の神様になった。平日なのでいい気になって、初めて湯涌の総湯に浸かった。熱いお湯だった。もう寄り道はせずに金沢森本から北陸道を東進する。距離だけなら安房峠を経由したほうが都内まで近いらしい。

小矢部川SAで富山ブラックの入門のような麺を食べた。
(2週前に食べられなかったので)

松代PAでは生姜焼き定食。いずれも、絵に描いたようなSA/PA飯でとても良かった。平日はこんなに空いていて、素晴らしい。土日という通念が早くなくなればいいのに。

週末2日間で往復してそのうえ登ることもできるという昨年の(あまり良くない)発見を繰り返すことはせず、休暇を交えて幾分か余裕のある行程にはなった。今回生まれた積み残しもあり、しかしやはり色んなルートを歩きたい。今度は一里野や中宮道から登るのも良いかもしれない。バイクで来ると片道の長い登山道は使いにくいというプリミティブな問題は出てくる。季節は、秋か晩秋か。

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