表紙画像: 別山を越えて太陽が昇り、左肩に剱岳
尾根に付けばトレースがくっきり残っている。奥大日岳の頂上は一足早く朝日を浴びていた。頂上まで顕著な登り区間が3つ。登って(室堂乗越)は少し下り、また登り(カガミ谷乗越)、下り、登ると2611mの最高点に着く。
4月中旬以降は平日ばかり晴れて土日は狙い澄ましたように低気圧が接近してきた。辛うじて土曜のAMが持ちこたえるかと思われた下旬に金曜の有給休暇を急ぎ申請し、金土の2日間で再開直後のアルペンルートを訪れた。今年こそと思っていた残雪期の立山と、ついでと言うのも失礼な大日連山主峰、奥大日岳の山行記録。まずまずの天候に恵まれた。SCARPAを出すのは今期これが最後になるだろうか。
木曜、例によって諏訪までナイト・ツアー。木曜夜は金曜夜ほど首都高が混んでおらず、先々週より遅く出たのに諏訪の快活に着いた時間はほとんど変わらなかった。翌朝はアルペンルート始発を狙って扇沢へ。平日に感謝、市営の駐車場はよく空いていた。
この時期のアルペンルート始発時刻は7時半。平日と言えども好天確実とありBCや登山目的の人で賑わう。長野側から入ると(室堂に行くのが目的であれば)電気バス→ケーブルカー→ロープウェイ→トロリーバスとやたらに乗り継ぎが多くて面倒ではある。みんなせかせかして乗り換える。アルペンルート自体は紅葉期に富山側から黒部ダムまで一通り訪れたことがあり、今回は沿線観光は二の次。
でも黒部ダムでは足を止めた
煌めく雪の赤牛岳ビュー
密集で息の詰まるケーブルカーを目を閉じてやり過ごし、比較的マシなロープウェイ。降りたあとの展望が良い。
無事最速便に運んでもらって、9時前に室堂に放り出された。富山側から入るより少し早く着いたようだ。登山指導所でコンパス提出済みの旨をアピールし、入山。その場で登山届を出す人に指導員がアドバイス(どこからどこの区間が危ない、など)を与えており、少し盗み聞きしていた。
浄土山はいつか薬師岳・五色ヶ原から縦走するときのために今回パスし、一ノ越山荘を目指す。
みんな暑がっている
視界がクリアなのですぐそこに目的地点があるように錯覚するものの、実際の距離は感覚よりも長く息が上がる。トレースをなぞっていけば歩きやすいが、少し外れると踏み抜くことも多々。とはいえスノーシューやワカンを使うほどではない。
あのヒコーキ雲
一ノ越
浄土山方面
反対側、雄山を目指して急勾配を登り詰める。ところどころ岩が露出していてアイゼンががちゃがちゃと泣き声を上げる。
北アルプス南部、槍と笠はどこから見てもすぐにそれと判る
富士山、春霞に負けじと
雄山まであと少し。雄山と一ノ越の間の区間はあまり馬鹿にならない。というのも、同じ日ここを下山中にアイゼンを引っ掛けて転倒し骨折した登山者がいたらしい。
雄山
一等三角点
北アルプス南部と右端に白山の幻影
雄山神社の社から南西方向の視界。ここまでは比較的フレンドリーな道で、問題はここから。立山三山の北端、別山まで歩き通す縦走に入る。
まずは雄山の社部分を乗り越える(画像は振り返った図)。画面右のトラバースは危ない(この先同様のトラバースは数箇所出てくるが)ので素直に岩道を手足を駆使して下りるのが良い。先行者があまりにも覚束ない様子で、時間をロスするとともに不安になる。
これから越えて行く雪の稜線
続く問題は大汝山手前のトラバース(これも振り返った図)。トレースを追ってここを通ることにしたが雪質はほぼ氷に近く、慎重にアイゼンを差し込みながら渡った。雄山の先で追い越した後続パーティは画面左の岩道から巻くことにしたようだ。
踏み跡がシュカブラ化していた
時々あるスリリング箇所を除けば快適な稜線歩き
常に白山を見ながら
富士ノ折立は時間を要しそうだったので頂上まで登らず
富士ノ折立から真砂岳へ急斜面のトラバースを下りていく。ここが縦走路で一番危ない箇所だった。先述、大汝山手前のトラバースと同じようなアイスバーンっぽい雪質で、下方に広がる奈落への傾斜も深い。一歩一歩アイゼンを効かせて、いつでもピッケルを全力で刺せる意識で越えていく。緊張の数十メートル。
内蔵助カールと真砂岳が見えてきた
淵に立つ
また青空にたなびく飛行機雲と富士ノ折立
富士ノ折立からの急下りを振り返る。この区間があるので雪山ガイド等でも逆コース(別山から雄山へ、本箇所を登りで処理する)がより平易と記載されている。
真砂岳で一息
別山への稜線と一続きになって向こうに待っている奥大日岳
真砂岳と別山の間にあるカール地形(名前が無いので厳密にはカールではない?)。
カールにシュプールを残すBCスキーヤー
真砂岳、立山主峰方向
別山方向
にわかにヘリコプターの音が聞こえ始めた。富士ノ折立、大汝山付近を周回しているようだった。後から聞いた話で2人ほど滑落者がいたとか。
律儀にカールを登り直していた
(雪崩は怖くないのだろうか?)
救助ヘリ
立山
カールを登る人
色々ある。
別山南峰に到着
お待たせと言わんばかりに登場する
後立山連峰オールスターズ(白馬岳、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳)
別山北峰が今日の最後のピーク。頂上には他に誰もいない。
一体何枚立山の写真を撮れば気が済むのだろう?
正午はとっくに回っていたがこの時間でもまだ富士山が見えた。白山とここ立山を合わせて日本三名山、全てが快晴の下にあった。
別山乗越へ
雷鳥沢キャンプ場、雷鳥荘が遥か下方に見える
この時期はほとんど登山者がいない剱岳(県の条例でかなり前に申請を出さないといけない)。夏に見た尖峰という印象と異なり、何だかずんぐりむっくりした山という風に見えた。
別山からの下り、なんと先々週に燕山荘の冬期小屋で一緒になって夕飯をお裾分けいただいたご夫婦とすれ違った。ご夫婦は雷鳥沢で幕営で、別山にピストンに来たとのことだった。こんな偶然もあるのか。
不思議な雪の造形物
まさしく雪稜という言葉が当てはまる、細く、両側の切れ落ちた箇所があった。トレースを辿れば不安はない。空中の平均台のようで楽しい区間だった。
雷鳥坂から急勾配の下り道
クラックもところどころ
何とかドシドシ歩きで下りられる限界の勾配。シリセードの跡と思しきものも残っていた。(シリセードの方が怖そうではある)
いくら一続きになってるとはいえこのまま奥大日岳まで歩くのは苦しい。立山縦走、室堂からだと標高差は小さいが、トラバースなど緊張を要する区間が多かったからかそこそこ疲れていた。
餃子の皮のよう
ぐんぐん近付く
登りの人々を横目にスピーディーに下りきり、雷鳥沢キャンプ場。立山の峰々に抱きかかえられているようなロケーション。キャンプ場から雷鳥荘への登り返しが疲れた体には絶妙に堪える。
この日は雷鳥荘に宿泊した。土曜の宿泊予約はかなり厳しいが、金曜か日曜にずらせば大体空いており、1日休暇が取れれば使い勝手良い山小屋(というか旅館)である。相部屋は8人収容で、現在は半数の4人体制としている様子。到着後、同室の方に今ならお風呂空いてますよと耳打ちされ、絶景の展望温泉を独り占めできた。部屋に戻って少し仕事を片付ける。
アーベントロートを見に外に出てきた。残念ながら西の雲が太陽を隠してしまった。
翌日の天気も何とかAM一杯は持ち堪えるようだった。盛り沢山の夕飯をいただき、20時半頃に就寝。
澄んだ空気の土曜朝。浄土山を歩くことも検討したが、当初予定通り奥大日岳を踏むことにした。5時前に雷鳥荘を出発。日の出はしばらく立山の連山が隠してしまうが出発から十分明るく、ヘッドライトは出番がなかった。
幕営民はまだ静かであり、雷鳥坂を歩いている登山者もいない。広々とした雪原を独り歩いていることに時に急に不安になる。
奥大日岳は昨日歩いた別山に続く尾根から一続きになっているので、とりあえず尾根上に上がれば良い。上がるのにどこを取り付き点とするかと逡巡して、夏道より少し雷鳥坂側に巻く形で緩い傾斜になるように登っていった。トレースのない箇所もあったが、視界は明瞭なので助かる。
尾根に付けばトレースがくっきり残っている。奥大日岳の頂上は一足早く朝日を浴びていた。頂上まで顕著な登り区間が3つ。登って(室堂乗越)は少し下り、また登り(カガミ谷乗越)、下り、登ると2611mの最高点に着く。
別山に続いていく頂稜が白み始める
毛勝山と剱岳もチラリ
室堂乗越手前で朝日に捕らえられた。急に眩しくなって目がチカチカする。それなりの傾斜があるので、おそるおそる振り返って写真を撮る。
太陽は別山から
室堂乗越から頂上方面。あと2回登れば奥大日岳。山の全体が日に当たるようになった。
伸びるトレース、右手の地獄谷の火山ガス、背後の立山連峰と目が愉しい。
剱岳を交えて
称名川に削り取られた黒色の谷に雪が被っていてチョコケーキみたい。奥の雪原に入った亀裂はアルペンルートの高原バスが走る道路。
カガミ谷乗越も無事に踏破
2611m地点を目指して最後のひと登り
奥大日岳の東峰、2611m地点に到達。夏道だとこの一番高い地点には立てない。奥大日岳の頂上本体はもう少し西に歩いた先にあり、標高は2606m。
特に東峰付近で雪庇がよく発達しているのがわかる
高曇りになってきた
奥大日岳頂上。土曜の朝、展望は独り占めだった。昨日とはまた違った角度から剱岳の全景を見る。
アルペンルートは本当に雪原を切り裂いて走っている。後で雪の大谷のところで見知ったことで、その昔は春に除雪車を走らせるにも都度都度コンパスで場所を確かめながら道を切り拓いていったらしい。
シュカブラと毛勝山と剱岳
ビクトリーロードですれ違う
白山を見納め。午後から天気が下り坂になるという予報で、西から崩れるなら白山はもうアヤシイかなとも思っていたが、早く出発したのが功を奏した。
登りの時以上に勾配のきつさを感じる下り道
早くも踏み抜いてしまうような雪質の箇所があり、ズボズボ言わせながら苦笑しながら標高を下げていく
これから2611m地点を目指す人々
2611m地点にほぼ辿り着いた人々
トレースが綺麗に伸びている
帰りは新室堂乗越まで歩かず、(雪崩の不安があったものの)ダイレクトにロッジ立山連峰へ下りていくトラバースを選択した。
頂稜を一瞥して標高を下げていく。立山縦走をするのか、剣御前小舎方面へ登っている人々も見られた。
雪の下に川
気温や雪質次第ではいつ雪崩が起きてもおかしくない地形
またHaloが見えていたようだ。歩いているそのときは全く気が付いていなかった。
ロッジ立山連峰に到着。室堂乗越を経るよりも距離自体はかなり短縮できた。
雷鳥荘への登り返しは本当に苦しい
みくりが池、ミドリガ池ともに雪の中。みくりが池温泉まで来ると人の数が一気に増えて、アイゼンを付けてピッケル片手に歩いているのが急に恥ずかしくなる。
2日間通してライチョウには全然出会えなかった。唯一、みくりが池の淵でハイマツに隠れる雌を見かけただけ(ハイマツにしかピントが合わずお粗末な写真となった)。
ちょうど土曜始発のアルペンルート便が到着するタイミングで室堂に帰ってきて、流石に賑わっていた。少し離れた場所で装備を片付ける。
実は一度来てみたかった
雪の壁の向こうからヌッとバスが現れるので、なかなか面白い。バスは数台まとめて来るので写真も撮りやすい。
一通り楽しみ、室堂ターミナル内のレストランで一服。ビーフシチューが美味しかった。午前中のオフピークで空いていたのも良かった。
室堂でゆったりした後、正午前のトロリーバス便で下山開始。ロープウェイ、ケーブルカーはガラガラという程ではなく(富山側から黒部ダムを目指す人もいるのだろう)、荷物の多い自分は端で縮こまっていた。黒部ダムの展望台に上がる気は起きず、売店でアイスクリームを食べて少しのんびりした。
扇沢に帰着
バイクもそこそこの台数停まっている
外界はよく晴れていて、ここから自由に半日を使える贅沢な昼下り。美ヶ原方面に行くことも検討していたが、久しぶりに糸魚川・上越の海沿いを走りたくなり、計画変更。R147を使うのも芸がなく、県道のr325で巻くことにした。大谷原は半年前に後立山連峰縦走で下りてきた場所で、懐かしい。当時は下山そのままに簗場駅まで歩き通したので、今回その足跡をバイクで辿り直す。
鹿島槍スキー場で振り返って
青木湖
まだ桜が見られたとは
後立山連峰の眩しい白馬村付近
糸魚川でコンビニ休憩し、いざ発進というところでピッケルリーシュが後輪に絡み取られ(普段ザックの外ポケットに格納しているものが知らぬ間に飛び出ていた様子)、ピッケルそのものも後輪に巻き込まれるという事故が発生。発進直後で本当に良かった。コンビニ前でおろおろしていたところを助けてくれて、タイヤからピッケルを外すのを手伝ってくださったご夫婦に本当に感謝。。CRFのスポークホイールが思ったより強靭であった。日本海沿いの道も心拍数が高ぶったまま走ることになった。
ここで夕日を見るのはもう四度目か五度目か。青海川駅に来るのもパターン化しつつあり、そろそろどこか他の場所を探してもいいかもしれない。
青海川駅
帰路は柏崎から小千谷へ内陸を抜け、小千谷から関越道。越後川口SAで給油しているときに下山通知を出していないことに気付き、慌ててメールを開いたらコンパスからのリマインダーが大量に届いていた。渋滞の時間帯は外して、スムーズに都内へ帰着。翌日は人と会う用事があったが、口周りの日焼けがかなり痛く、マスク様々であった。今までと別段変わった日焼け止めの塗り方をしたわけではないので、今まで以上に照り返しが強かったということか。日焼けの痛みは水曜頃まで続いた。
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