朳差岳

表紙画像: 頂上付近に咲くハクサンイチゲ

曇天で満足度は今一つな山行だったというのが正直なところ。飯豊山系は(この前の二王子岳を入れなければ)これが初めてである。6月の週末に晴天が重なることはあまり願っても助けにならない。日は覗かなくても雨が降らないのならば十分赦せる方で、前日に瀬波温泉、翌日日帰りで朳差岳を登るという計画にした。瀬波の近くには笹川流れがある。笹川流れは大切で大好きな道の一つで、今までも歩いたり走ったりは数あれど、案外に曇天は初めてのことだった。余計な上書きをしてしまったかもしれない。自分聖地の寒川バス停も、となりが青い空と青い海でなければシンボルっぽさが薄れて見えるものだった。瀬波温泉はところがこの冴えない空の割に賑わっていて、これもまた自分向きでなく残念だった。(湯は良かった)

どうせ混んでいるからとそれほど思い残すことなく旅館の朝食をパスして村上を早出し、奥胎内までの道は意外と狭くスリリングに感じる。山の中を長く走ったつもりが、ヒュッテの標高はそれほど高くない。狭い山道で猛スピードの乗り合いタクシーとすれ違い、肝を冷やす。ヒュッテ前の道路には長い駐車の列。大して良くない天気で、歩く距離も短くないのに、と少し意外だ。バイクなので少しスペースがあれば停められるのがいい。ヒュッテに近いところに場所を見つけた。

ヒュッテからの乗り合いタクシーは6月頭から開始していたが、時間に間に合わずに利用できなかった。朝に3本しか走っていない。尾根の取り付きの登山口まで3キロ程度、宮城ゲートからの歩きを思い出せばこれくらいは何でもない。足の松尾根に入って、樹林帯をひたすら歩いて標高を上げていく。距離が長いのでしっかり早朝から歩き始める人が多いのか、なかなか先行者にぶつからない。山を冬と夏だけに分けるならば、先月の白山までは明確に冬だった。そして、この朳差岳から明確に夏。(2つの山の間に栗沢山と仙丈ヶ岳に登ったが、あの回だけは仕分けが難しい) 夏は暑さと虫が困り物だが、日帰りの荷物が軽くなるのはいい。悪くないペースで大石山に辿り着くと、ようやくハクサンイチゲが現れた。

大石山から鉾立峰、朳差岳へ登り返しが二度。道脇ところどころにイチゲとキンバイ(キンポウゲ?)、イワカガミが咲いていて、ガス気味でもなかなか楽しい。少ないながらハクサンチドリも咲いていた。最初に目を楽しませてくれるのが大石山から鉾立峰側にすぐ歩いた箇所のイチゲ群落で、その次は朳差岳直下の大群落。ガスを背景にマクロで撮ると、幻想的に写った。降雨の予感はしなかった。避難小屋前で昼食をと思っていたが、登りで予想外に水を消費しており、カップ麺の調理は断念した。頂上近くの水場は急傾斜の雪渓を下らないと辿り着けない。アイゼンは持ってきていたが、水の要らない食糧を持ってきていたのでそちらを頼った。

荷物の軽さが助けて、下山もずんずんと足が進む。大石山から鉾立峰はアップダウンで往復の時間に本来大差はないはずが、帰りの方が明らかに早かった。登山道上に雪が残っている箇所はほとんど見られなくて、もう夏の山だと思ったのはそれが一番の原因かもしれない。樹林帯に入ればとかく単調。木の根や岩に引っ掛からないように注意しないといけない。登りの途中は弱く日が射すところもあったが、下山では分厚い雲が優勢で、せっかく塗った日焼け止めはあまり意味がなかった。虫除けのリング(虫の嫌いな匂いが擦り込まれているとのこと)はあまり意味がなく、纏わりつく虫を払ってはまた纏わりつかれたり、汗でベタついたりと、早く風呂に入りたくてたまらなくなる。去年までは風呂と登山は必ずしもリンクしていなかったのに、いつからこうなったんだろう。かくして尾根を下りきり、乗り合いタクシーの時間前に着いてしまったのでまた車道歩きをすることになった。

奥胎内ヒュッテの浴場は温泉ではなく湧き水を沸かしたものということだが、関係ないことだった。汗を流して、まだそれほど混んでいない湯船に浸かると本当に気持ちよかった。今年1年だけで、過去4~5年の入浴回数を上回っている気がする。短パンの上からレインウェア兼用の薄いパンツを履いて、涼しいが事故に遭えばひとたまりもない格好で関越道を走りきった。強い雨には幸いあたらず。梅雨時に出かけると、目的地でどんなに雨を回避しても往復でゲリラ豪雨に当たる可能性がそれなりに高い。青空の印象に乏しい(下越は昨年同時期に見た晴天の水田風景が心に残っている)のが残念だったが、飯豊山系・朳差岳、いつかまた来ることはあるだろう。今頃はニッコウキスゲが見頃になっているだろうか。


ハクサンイチゲ

ハクサンイチゲ群落とバックには頂上避難小屋

黄色い花

ガスがちだったが山体が僅かに見えるタイミングもあった

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